このコラム、一般形成のドクターもみて参考にされているとご質問等のメールをいただくことが何度かありました。そこで植毛従事者における「植毛とは」について述べてみたいと思います。
元々この植毛という手術は、研修医でもやれるほど簡単な手術ではあります。しかしその結果には、施術者により大きな差があるものです。それを左右するものはなんでしょう。経験年数でしょうか、手術数でしょうか、手術法あるいは手先の器用さでしょうか。多くのドクターに教えてきた経験からはどうもそういうものではない気がします。つまり、わりと経験が浅いドクターでもそこそこの結果を出せる人がいますし、その逆も多々あります。結局、技術はさほど難しくないこのような分野では、「心」が大きく関わってきてしまうのです。完璧にしたい心、慢心することなく、昨日より今日、今日より明日はもっと上手くなりたいと思う心、何とか毛を増やし幸せを届けたいと願う心。教えを受け入れる謙虚さと科学的考察、それを改良していこうとする独創性、そして知識に裏打ちされたセンスです。私の場合手術中に繰り返し念じるのは「一毛入魂」です。ちなみに、これらのことは植毛の場合は看護師もその結果に大きく関わっているため同様に言えることです。
もちろん、「心」だけではだめです。その上に、既存のものには常に疑問をもち留まることなく、よいと思える新たなものにも挑み、経験と知識を積み重ねていくことです。新たな技法を思いついても、患者さんで試さず脳内で試すのです、全てに矛盾がなければその仮説は当たらずとも遠からずです。もし、結果がおもわしくないなら、他のせいにして逃げず原因を一つ一つ潰していくことです。そういう念いから、自分に厳しく明日からも精進していかなくてはいけません。
補)現在(2017年12月9日時点)、当院は私一人で手術をしており更に想定している手術時間が一般的手法の倍なため可能な手術数に限界があります。「心」を持って取り組んでいただける医師看護師のかた、一緒にやりませんか。現在の科は問いません。(御連絡は当院事務局長阿部まで)
多くのクリニックで1本毛なるものを得ようとすると、1本毛自体がとても少ない、あるいは取れにくいため多くの場合最小単位であるFU株を更に細かくして作成するわけですが、この作業がかなり株をいためて生着不良の原因となります。そこで当院では、あまり小さい毛が取れにくいときには、例えば3本毛から1本だけを採取することがあり、これだと、株に触れる時間はとても短く、触れることによるダメージをなくすことが出来るだけでなく、残した2本も一時的には脱落しても、3ヶ月後には2本毛が出てきてその採取傷跡を隠してくれます。これをスプリット採取と呼んでいるのですが、スプリット採取した株の生着に遜色はないようなので、最近はその割合が多くなった気がします。実際生え際やや奥でも3本毛以上はやはり大きすぎる気がしますで、そこでスプリット採取を使い大きさを調整しています。欠点は、多少手間がかかる程度なのですので。
この三つの意味は明確に区別して使うべきです、これがごっちゃになってる説明を頻繁にみかけます。つい先日ドナーロスについて、患者様からご質問がありました。それはFUEではドナーロスが20%ほどあり、ストリップ法でも普通はメスで剥ぎ取るだけで無条件に5%はロスすると他院で言われたというものです。
まず最初にはっきり区別して頂きたいのは、こちらでのi-SAFEは確かにFUEの一つではありますが、世界一般で行われてるFUEとは、別物と言ってもいいくらい異なるものです。これを踏まえて先ほどのFUEのドナーロスが20%は事実かといえば、多少違っているでしょう。確かにFUEの世界での平均的な切断率は(なんと!)15~20%程度ですが、切断されたからといってそれが必ずしもドナーロスになるわけではなく、割合はまちまちですが一部は生着するものです。ストリップ法においてのロスも採取で5%とかロスするとしたらそれは相当不注意な執刀なのでしょう。仮にロスではなく切断率としても、せいぜい2%程度です。
ロスが起こりえるのは、①採取の時の切断や挫滅損傷、②株分け・トリミングの時の切断や挫滅損傷、③ドナー保管時のヴァイアビリティの低下、④移植時の挫滅損傷ということになります。これ以外にも不適切な移植孔の作成でも生着不良は起こりえますし、さらに、不適切なユニット(毛)も結果ロスに繋がります。もちろん移植後に3日間は乾燥は避けこすったりしないなどの術後ケアも生着に関わるものです。実際細かく世界中のデータを調べたわけではないので、今までいろいろな術式と術数をやってきた経験上の話になりますし、またロスという結果は、いくつかの原因が重なって起こるものなので、必ずしも、それぞれの原因の影響度を数値化できないため、概念的数値であることはご了承下さい。
ストリップ法において①はおよそ1%、②は3~8%、③は不確定、④は2~3%程度
FUEにおいては、①は5~20%(パンチのサイズにもよる)、②不明、③不確定、④2~3%程度
またALTASも一般のFUEとしては括れない、①はわりと低く1~3%(ではあるがパンチのサイズがやや大きいのでトリミングを必要とし単純に比較できない)、②は3~5%、③不確定、④は2~3%と言ったところです。
これらに対してi-SAFEでは、そもそも切断率からして1~2%程度ですので世界一般のFUEとは桁違いに低いものです。したがって①も1%以下、②トリミングはするのですが株の肩の部分をなで肩にする程度なのでほとんどロスはありません。、③はまず作りだした株の切断・損傷が極めて少ないためヴァイアビリティの低下はとても遅く、さらに特殊な保存液を用いているため、i-SAFEが他の方法よりも遙かに時間のかかる術式でありながら、ほとんどロスはありません。④において、移植孔は他の方法にくらべかなり小さいが、ダイレータ(拡張器)を使うやや高度な技術をそのための訓練を受けたアシスタントが行うことによりロスは同じかまたは低く抑えています。さらにはPRPやフィブラストの使用、EGFを含む保湿スプレーの術後ルーティン使用によって、不要なロスは避けています。(実際あまり話題になりませんが、この看護師の技術力は植毛手術においてかなり重要な要素となります。)
とまあ、このような感じです。最後になりましたが、ちなみにドナーロスの定義は、採集したのに生着しなかったか、元のサイズで生着しなかった毛ということですね、普通に考えると。
余談ですが、もしドナーロスを毛髪と頭皮とすると、ストリップ法ではロスはとても大きく、一般のFUEでのパンチサイズは1mmφ前後ですので、頭皮のロスは少なく、更にi-SAFEでは0.6~0.8mmφのサイズですので極めて少なくなります。(この極細パンチを用いて通常の方法でFUEの採取を行えば、生着に必要な部分が十分とは言えない株を採取することになり、これはロスにつながってしまいます。)
女性の相談で多いのは、
頭頂部「分け目」の地肌が透けて、ボリュームがない。
四角く男性的なおでこの生え際を丸くしたい。
の二つになります。今回は頭頂部分け目についてです。
男性の薄毛の原因のトップはAGA男性型脱毛症であり、メカニズムもかなり解明されているため、有効といえる薬もあります。また植毛においても材料の採取として用いる後頭部の毛はAGAを起こさない性質があり、材料としては優れています。これに対して女性の薄毛のトップはびまん性脱毛症の一つであるCTE慢性休止期脱毛症であり、メカニズムも不明な部分が多いため、決定的な治療法がありませんが、やはり手術と薬の併用が基本となります。
ここで言う薬の主たる目的は、毛の成長維持、休止期から成長期への転換です。この目的にあったものは、成長因子グロースファクターGFでしょう(ミノキシジルも最終的には成長因子による効果との研究があります)。GFは週のうち3日以上は行うことが必須です。髪のために使うGFにはほとんど副作用はありませんが、これが高分子タンパク質であるため。内服してもアミノ酸に分解され、塗布では充分吸収されない、注射だと毎日頭部に打つのは難しく可能であっても、それ自体がストレスとなり、CTEの原因となりかねない、かといってよくあるメソセラピーの様に2週に一度では効果が充分でない、など問題がありこの中では、効果は少なくても自宅で塗布するのを基本として、月に数回メソセラピーとして投与が現実的です(GFの他、PRPやオートコラーゲンなど再生メソセラピーもある)。効果が見えるケースでも、ほとんど瘢痕化したような毛穴から発毛すると言うことはやはりなく、そのような部分は確実性が高く副作用を考える必要のない植毛を行っていくことになります。
そのほかの女性の薄毛の薬では、FAGA(女性の男性型脱毛症)にはスピロノラクトンやタガメット、フルタミドを使った男性ホルモンの作用を阻害する方法もありますが、副作用の割には効果が少ない気がします。さらに、女性の薄毛や抜け毛を改善するというサプリ?も処方されることもありますが、副作用はないですが、費用対効果は悪い気がします。
他の育毛のメッセンジャーの一つにプロスタグランジンf2αがあると言われていますが、機序は解明されてはいません。ルミガン、ラティス、グラッシュビスタ(ビマトプロスト)として、まつげ育毛に使用されていて、有意な効果が認められます。しかし頭髪の対するように広範囲使用の安全性は確立されていません。
また、CTEの原因は、自律神経が生まれつき過敏であるなど、神経に関係している証拠もあり、そこではサブスタンスPなるメッセンジャーもあります。こちらに関しては最近、交感神経をブロックするボトックスが有効かもしれないという研究もあります(研究における結果の解釈は私の解釈と異なりますが)。これは今までの治療で十分でないCTEのケースでは試してみてもよい薬と思っています(これはまた、頭からの過剰の汗の防止になる)。
女性の植毛においても、採取には一般に後頭部が使われます。もちろんAGAの場合と異なり、CTEを起こしうるのですが、それでも他の部分に比べると脱毛には多少なりとも強いようです。この比較的強い部分から、慎重にさらに強い毛を持つグラフトを選択して採取しなくてはいけません。そういう意味ではストリップテクニックは適していません。
また、移植においても、侵襲の少ない移植毛穴をあける必要があります。これは既存毛に対する配慮というよりも、その侵襲が新たなストレス、新たな脱毛につながらないようにするためです。また使用するグラフトや移植のデザインにおいても、男性よりさらなる審美性を必要とします。
このようなことを、熟知し熟練した医者が、慎重に行ってはじめて、女性における植毛での満足度を上げることができるのです。男性へ行うと同じ感覚で手術を行えば多くは満足の得られない結果となりかねません。
当院自毛植毛例
カツラは、一見手軽で、効果の高い方法のように思われますが、年齢不相応に密度が高い、思いの外維持費がかかる、帽子をかぶったまま生活をしている感じで煩わしい。バレているだろうけどあまりに落差が大きくそのカツラを外せない。などなど、いろいろと、苦労がつきまといます。だから、もうそろそろカツラをやめたいといって当院を受診される方がいらっしゃいます。自毛植毛で得られる髪は、ご自身の髪であり、毛周期を繰り返す普通の髪ですから、メンテナンスも要らず、間違いなく自然です。そして、カツラの不便さをことごとく解消してくれるでしょう。
しかし、問題点もあります。それは、自毛植毛で使う植える材料は、ご自身の後頭部・側頭部から採取し、それは毛を作り出す工場ごとですので、取ったところにはその工場はなくなり、取った分は少なくなります。つまり、限界があるということです。毛穴を引き抜くFUEでは、余分な皮膚を切り取ったりしていませんので、以前からある頭皮を切り取るストリップテクニックよりは限界は高いのですが、それでも、通常AGAのある東洋人で7000~8000株(株=毛穴、15000本相当)をとると、採取部の密度はかなり透けてきて、打ち止めとした方がいいレベルとなります。
その7000株でカバーできる範囲を考えてみましょう。仕上りの密度として、ある程度の満足が得られるのは、おおよそ40株/cm²程度、そう考えると、7000÷40=175cm²、手の平の大きさが約120cm²なので、その1.5倍程度はカバーできる勘定ですが、これは複数回のトータル数です。こちらで行っているバイブリッドi-SAFEを使っても、一日でとれるのは4000株程度が上限となりますので、広範囲のカツラでは、まずは小さいカツラへの移行というように考えて頂くと良いでしょう。
また、40株/cm²の密度、これは、カツラの不自然なほどの高密度に比べると、まだまだなのですが、年相応の髪量でカミングアウトしたいと考えれば、適当な密度と言えるかもしれません。
結論、多くのケースで、自毛植毛によりカツラを卒業できるのではないでしょうか。
薄毛に気がついたら、ほとんどの方が考えることは、「取りあえず薬で何とかしたい」です。でも本当にそれは正しい選択なのでしょうか。AGAにおける5aRIの内服は確かに特効薬ではありますが、単なるサプリとは違います。毎日飲んで何年も大丈夫なのでしょうか。男性ホルモンの作用を抑えたり、やる気に関係する脳内ホルモン量を抑えたりするわけですから、不可逆的がどうかは、おいておいても、長期連用は避けたいものです。他の内服薬においても同様です。また、副作用はあるのに、効果が充分でないことも多く、それは年月が経つほどその傾向にあります。
私の選択肢は、
1、期間や容量を限定してそのような薬を使う
2,効果が少ないが副作用のないもの使う
3,副作用もなく、効果もあるが、ちょっと大変かもしれない手術を受ける
1については、休薬期間を作ったり、薬を割って使ったりするわけです。2については外用とくに成長因子です。多少は副作用もある。3に関しては、現在は昔のように大変な、そして怖い切ったりする手術ではなくなってきており、さらに、当院が行っているように細かい作業で既存毛へのダメージがすくない手術なら、充分初期からでも選択肢として考えるレベルにあります。初期だからこそ、既存毛をできるだけ残せ、傷跡を最小にできる手術法を選ぶことは必須です。どこのクリニックでも同じ結果ではありません。
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