先日以下のようなご質問がありましたので、すこし書かせていただきます。
質問)他院では、あまり株を調整しないようですが、何故、アスク井上クリニックでは、株をトリミングするのか。そのメリット、デメリット、使い方をお教えください。
回答)それは誤解です。当院では、極力採取株に触れたくないですし、もともととてもスキニーですのであまり削る必要もありませんが、表皮部分が多く残るとここでキズが汚くなり易いため、この部分だけトリミングしているということです。必要最小限です。 実際この株に対するトリミングや株分けの過程が、FUE、ストリップ法に関わりなく生着率低下の主要な原因の一つであるとこはまちがいありません。アルタスの成績がよくないと聞きますが、これはアルタスの採取時の損傷率が高いのではなく、採取される株が太くそのため全体的なトリミングや株分けをする必要があり、そのときに施術者の技量により、損傷が出てしまうのでしょう。当院での1本毛の作成は、やや小さいパンチで二通り、サイズの小さいほぼ1本毛の細毛を採取するか、またはスプリットの手法で採取するかです、これも株に触れるのは最小限です。
また植え付けのための植え込み穴のサイズを小さくすることは大切です。しかし他院で小さなスリットに入れるために、株をかなりそぎ落としトリミングしているようですが、それに植え付ける技術・手法と株の作成技術とが伴っていないと、酷い生着不良を起こしてしまいます。当院の植え付け法はかなり特殊です。
この三つの意味は明確に区別して使うべきです、これがごっちゃになってる説明を頻繁にみかけます。つい先日ドナーロスについて、患者様からご質問がありました。それはFUEではドナーロスが20%ほどあり、ストリップ法でも普通はメスで剥ぎ取るだけで無条件に5%はロスすると他院で言われたというものです。
まず最初にはっきり区別して頂きたいのは、こちらでのi-SAFEは確かにFUEの一つではありますが、世界一般で行われてるFUEとは、別物と言ってもいいくらい異なるものです。これを踏まえて先ほどのFUEのドナーロスが20%は事実かといえば、多少違っているでしょう。確かにFUEの世界での平均的な切断率は(なんと!)15~20%程度ですが、切断されたからといってそれが必ずしもドナーロスになるわけではなく、割合はまちまちですが一部は生着するものです。ストリップ法においてのロスも採取で5%とかロスするとしたらそれは相当不注意な執刀なのでしょう。仮にロスではなく切断率としても、せいぜい2%程度です。
ロスが起こりえるのは、①採取の時の切断や挫滅損傷、②株分け・トリミングの時の切断や挫滅損傷、③ドナー保管時のヴァイアビリティの低下、④移植時の挫滅損傷ということになります。これ以外にも不適切な移植孔の作成でも生着不良は起こりえますし、さらに、不適切なユニット(毛)も結果ロスに繋がります。もちろん移植後に3日間は乾燥は避けこすったりしないなどの術後ケアも生着に関わるものです。実際細かく世界中のデータを調べたわけではないので、今までいろいろな術式と術数をやってきた経験上の話になりますし、またロスという結果は、いくつかの原因が重なって起こるものなので、必ずしも、それぞれの原因の影響度を数値化できないため、概念的数値であることはご了承下さい。
ストリップ法において①はおよそ1%、②は3~8%、③は不確定、④は2~3%程度
FUEにおいては、①は5~20%(パンチのサイズにもよる)、②不明、③不確定、④2~3%程度
またALTASも一般のFUEとしては括れない、①はわりと低く1~3%(ではあるがパンチのサイズがやや大きいのでトリミングを必要とし単純に比較できない)、②は3~5%、③不確定、④は2~3%と言ったところです。
これらに対してi-SAFEでは、そもそも切断率からして1~2%程度ですので世界一般のFUEとは桁違いに低いものです。したがって①も1%以下、②トリミングはするのですが株の肩の部分をなで肩にする程度なのでほとんどロスはありません。、③はまず作りだした株の切断・損傷が極めて少ないためヴァイアビリティの低下はとても遅く、さらに特殊な保存液を用いているため、i-SAFEが他の方法よりも遙かに時間のかかる術式でありながら、ほとんどロスはありません。④において、移植孔は他の方法にくらべかなり小さいが、ダイレータ(拡張器)を使うやや高度な技術をそのための訓練を受けたアシスタントが行うことによりロスは同じかまたは低く抑えています。さらにはPRPやフィブラストの使用、EGFを含む保湿スプレーの術後ルーティン使用によって、不要なロスは避けています。(実際あまり話題になりませんが、この看護師の技術力は植毛手術においてかなり重要な要素となります。)
とまあ、このような感じです。最後になりましたが、ちなみにドナーロスの定義は、採集したのに生着しなかったか、元のサイズで生着しなかった毛ということですね、普通に考えると。
余談ですが、もしドナーロスを毛髪と頭皮とすると、ストリップ法ではロスはとても大きく、一般のFUEでのパンチサイズは1mmφ前後ですので、頭皮のロスは少なく、更にi-SAFEでは0.6~0.8mmφのサイズですので極めて少なくなります。(この極細パンチを用いて通常の方法でFUEの採取を行えば、生着に必要な部分が十分とは言えない株を採取することになり、これはロスにつながってしまいます。)
実際移植するものは、毛一本づつではなく、毛包単位が基準となりますが、3本毛、4本毛の毛包単位をあえて縦割りに2本毛の様に採取することがあります。これにより採取株の生着率が落ちるかといえば、正確な縦割りさえできていれば(ここが一番重要)、ほとんど低下はしないようです。これによるメリットの第一は、採取部位に残した方の毛も生えてきて、採取痕を隠してくれることです。デメリットは一回り小さいパンチを使用するために難度が相当高くなりそのため多少手間がかかることぐらいです。
ちなみに、この縦割りに適しているのは、Two-canals-unitつまり一つの毛包単位なのに毛穴が二つ並んであるようなものです。
split extracting
私のHPでも、一度で行える手術の上限はおよそ4000株(10000本)と記載しているのですが、東洋人において、ある程度AGAが進行しているケースでは、これはなかなか難しく、採取出来ても、手術時間は長く、後頭部の密度感は低くなりがちです。
そこで、多くの方で、この4000株(10000本)以上を手術できる可能性として、一つの解決法は、切るFUSSと切らないFUEを併用するハイブリッド法です。各々で2000株なら、切って縫った傷のテンションも低く抑えることができ、ある程度は気にならない程度の傷跡にできることが多く、採取も効率良く、時間も短縮できるのではないかということです。いくらかの切る方法のデメリットに目をつぶれば、数や時間の恩恵があると考えるのです。
以前、FUSSからFUEへの移行期に、ここまでの数ではないですが、ハイブリッド法を行ったことが何度かあり、経過に問題が無いことは確認済みです。