この三つの意味は明確に区別して使うべきです、これがごっちゃになってる説明を頻繁にみかけます。つい先日ドナーロスについて、患者様からご質問がありました。それはFUEではドナーロスが20%ほどあり、ストリップ法でも普通はメスで剥ぎ取るだけで無条件に5%はロスすると他院で言われたというものです。
まず最初にはっきり区別して頂きたいのは、こちらでのi-SAFEは確かにFUEの一つではありますが、世界一般で行われてるFUEとは、別物と言ってもいいくらい異なるものです。これを踏まえて先ほどのFUEのドナーロスが20%は事実かといえば、多少違っているでしょう。確かにFUEの世界での平均的な切断率は(なんと!)15~20%程度ですが、切断されたからといってそれが必ずしもドナーロスになるわけではなく、割合はまちまちですが一部は生着するものです。ストリップ法においてのロスも採取で5%とかロスするとしたらそれは相当不注意な執刀なのでしょう。仮にロスではなく切断率としても、せいぜい2%程度です。
ロスが起こりえるのは、①採取の時の切断や挫滅損傷、②株分け・トリミングの時の切断や挫滅損傷、③ドナー保管時のヴァイアビリティの低下、④移植時の挫滅損傷ということになります。これ以外にも不適切な移植孔の作成でも生着不良は起こりえますし、さらに、不適切なユニット(毛)も結果ロスに繋がります。もちろん移植後に3日間は乾燥は避けこすったりしないなどの術後ケアも生着に関わるものです。実際細かく世界中のデータを調べたわけではないので、今までいろいろな術式と術数をやってきた経験上の話になりますし、またロスという結果は、いくつかの原因が重なって起こるものなので、必ずしも、それぞれの原因の影響度を数値化できないため、概念的数値であることはご了承下さい。
ストリップ法において①はおよそ1%、②は3~8%、③は不確定、④は2~3%程度
FUEにおいては、①は5~20%(パンチのサイズにもよる)、②不明、③不確定、④2~3%程度
またALTASも一般のFUEとしては括れない、①はわりと低く1~3%(ではあるがパンチのサイズがやや大きいのでトリミングを必要とし単純に比較できない)、②は3~5%、③不確定、④は2~3%と言ったところです。
これらに対してi-SAFEでは、そもそも切断率からして1~2%程度ですので世界一般のFUEとは桁違いに低いものです。したがって①も1%以下、②トリミングはするのですが株の肩の部分をなで肩にする程度なのでほとんどロスはありません。、③はまず作りだした株の切断・損傷が極めて少ないためヴァイアビリティの低下はとても遅く、さらに特殊な保存液を用いているため、i-SAFEが他の方法よりも遙かに時間のかかる術式でありながら、ほとんどロスはありません。④において、移植孔は他の方法にくらべかなり小さいが、ダイレータ(拡張器)を使うやや高度な技術をそのための訓練を受けたアシスタントが行うことによりロスは同じかまたは低く抑えています。さらにはPRPやフィブラストの使用、EGFを含む保湿スプレーの術後ルーティン使用によって、不要なロスは避けています。(実際あまり話題になりませんが、この看護師の技術力は植毛手術においてかなり重要な要素となります。)
とまあ、このような感じです。最後になりましたが、ちなみにドナーロスの定義は、採集したのに生着しなかったか、元のサイズで生着しなかった毛ということですね、普通に考えると。
余談ですが、もしドナーロスを毛髪と頭皮とすると、ストリップ法ではロスはとても大きく、一般のFUEでのパンチサイズは1mmφ前後ですので、頭皮のロスは少なく、更にi-SAFEでは0.6~0.8mmφのサイズですので極めて少なくなります。(この極細パンチを用いて通常の方法でFUEの採取を行えば、生着に必要な部分が十分とは言えない株を採取することになり、これはロスにつながってしまいます。)
女性の相談で多いのは、
頭頂部「分け目」の地肌が透けて、ボリュームがない。
四角く男性的なおでこの生え際を丸くしたい。
の二つになります。今回は頭頂部分け目についてです。
男性の薄毛の原因のトップはAGA男性型脱毛症であり、メカニズムもかなり解明されているため、有効といえる薬もあります。また植毛においても材料の採取として用いる後頭部の毛はAGAを起こさない性質があり、材料としては優れています。これに対して女性の薄毛のトップはびまん性脱毛症の一つであるCTE慢性休止期脱毛症であり、メカニズムも不明な部分が多いため、決定的な治療法がありませんが、やはり手術と薬の併用が基本となります。
ここで言う薬の主たる目的は、毛の成長維持、休止期から成長期への転換です。この目的にあったものは、成長因子グロースファクターGFでしょう(ミノキシジルも最終的には成長因子による効果との研究があります)。GFは週のうち3日以上は行うことが必須です。髪のために使うGFにはほとんど副作用はありませんが、これが高分子タンパク質であるため。内服してもアミノ酸に分解され、塗布では充分吸収されない、注射だと毎日頭部に打つのは難しく可能であっても、それ自体がストレスとなり、CTEの原因となりかねない、かといってよくあるメソセラピーの様に2週に一度では効果が充分でない、など問題がありこの中では、効果は少なくても自宅で塗布するのを基本として、月に数回メソセラピーとして投与が現実的です(GFの他、PRPやオートコラーゲンなど再生メソセラピーもある)。効果が見えるケースでも、ほとんど瘢痕化したような毛穴から発毛すると言うことはやはりなく、そのような部分は確実性が高く副作用を考える必要のない植毛を行っていくことになります。
そのほかの女性の薄毛の薬では、FAGA(女性の男性型脱毛症)にはスピロノラクトンやタガメット、フルタミドを使った男性ホルモンの作用を阻害する方法もありますが、副作用の割には効果が少ない気がします。さらに、女性の薄毛や抜け毛を改善するというサプリ?も処方されることもありますが、副作用はないですが、費用対効果は悪い気がします。
他の育毛のメッセンジャーの一つにプロスタグランジンf2αがあると言われていますが、機序は解明されてはいません。ルミガン、ラティス、グラッシュビスタ(ビマトプロスト)として、まつげ育毛に使用されていて、有意な効果が認められます。しかし頭髪の対するように広範囲使用の安全性は確立されていません。
また、CTEの原因は、自律神経が生まれつき過敏であるなど、神経に関係している証拠もあり、そこではサブスタンスPなるメッセンジャーもあります。こちらに関しては最近、交感神経をブロックするボトックスが有効かもしれないという研究もあります(研究における結果の解釈は私の解釈と異なりますが)。これは今までの治療で十分でないCTEのケースでは試してみてもよい薬と思っています(これはまた、頭からの過剰の汗の防止になる)。
女性の植毛においても、採取には一般に後頭部が使われます。もちろんAGAの場合と異なり、CTEを起こしうるのですが、それでも他の部分に比べると脱毛には多少なりとも強いようです。この比較的強い部分から、慎重にさらに強い毛を持つグラフトを選択して採取しなくてはいけません。そういう意味ではストリップテクニックは適していません。
また、移植においても、侵襲の少ない移植毛穴をあける必要があります。これは既存毛に対する配慮というよりも、その侵襲が新たなストレス、新たな脱毛につながらないようにするためです。また使用するグラフトや移植のデザインにおいても、男性よりさらなる審美性を必要とします。
このようなことを、熟知し熟練した医者が、慎重に行ってはじめて、女性における植毛での満足度を上げることができるのです。男性へ行うと同じ感覚で手術を行えば多くは満足の得られない結果となりかねません。
当院自毛植毛例
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薄毛PRPとは、血液に含まれる血小板を多く含む多血小板血漿のことで、大まかに言えば、採血した血液に抗凝固剤を少し入れ遠心分離した時の上澄み液として得られるものです。有効成分はおそらく含まれるサイトカインや成長因子です。最近は様々な医療領域における安全性の高い再生医療として使用されています。たとえば歯科領域では、、歯周組織再生とくに歯が無くなったために吸収された歯槽骨の再生に盛んに用いられています。美容外科領域でも、皮下組織の再生を期待して、ボリュームだけでなく、シワ、たるみの改善のために用いられています。整形外科でも、筋・腱・骨の再生に用いられています。
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しかし、これによって毛髪が再生されることがあるのかと言えば、毛髪が先ほどの例のような組織ではなく器官として作られているため、かなり難しく、よって、無くなったものはさすがに出てこない。しかし細く短かった毛が、多少ながら成長がみられ、太く長くなることがあるようです。もちろん永久的なものではないため、数週間または数ヶ月おきに繰り返す必要はあります。副作用らしいものはないため、使いやすいですが、その効果は安定していません。
当院での使用方法は、主として、手術中の採取毛の保存液として、また手術後の、直後の傷の治りを良くして、また移植毛の生着をよくするために使用しています。これだけの効果に限定すれば、それなりの結果を出してくれています。その中で、人によっては、既存毛が濃くなることがあるようなのです。
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あまり、意識していないせいか、十代でのAGAは無いように思われているのですが、大人になって受診される方の15%がすでに15歳前後で薄毛の発症を感じており、さらにわずかですが、十代前でも発症があるとの統計があります。
(この若年性のAGAとは別に、出生時に母胎の男性ホルモンの影響でAGAパターンをもつベビーがいます、出生後一年ほどで改善しますが、やはり、男性ホルモンの感受性が強い傾向にあり、その多くは将来AGAになるようです。)
AGAの内科的治療の主流は現在、男性ホルモンの作用を一部抑制するタイプの治療であるため、このような十代の生殖器のみならず体幹の成長期には使用できません。これに対して、脱毛を抑制するのではなく、成長を促進することで、薄毛を改善する代替法があります。その一つはミノキシジルです。さらに直接的に作用して副作用の少ない成長因子があります。また、そこまではと考えられてきた植毛も、侵襲の少ない方法が確立してきたため選択肢になりえます。
成長因子を使用しての治療におけるポイントは3点ほどあります。
どうやって作り、どの程度の頻度で、どの様にして適用するかです。
まず第一点はその作成法です。理想的には、目的となる成長因子を、E.Coli等へ遺伝子組み込みにより遺伝子工学的に精製することです。しかし最近使用されているものの多くは幹細胞などの培養液から抽出したもので、目的する成長因子が少ないだけでなく、目的としない、望まないものまで含まれていている可能性があります。効果だけでなく、安全性の面でも遺伝子工学的に作成されてものを必要に応じて混合しての使用が望ましいと思います。
第二点は、常に一定以上の組織内濃度が必要なので、頻回に適応することが必要です、毎日でも。しかし多くの治療法では2週間に1度とかになっており、これでは仮に良い成長因子であっても、効果は出にくいはずです。しかし、この頻回適用には、まず自宅で行えることが必要で、これは第三点目のポイントである適応法が関係します。
つまり、もちろん、成長因子は高分子タンパク質なので、内服してはアミノ酸に分解され、塗っただけでは、十分には吸収されないため、通常は注射やマイクロニードルスタンプの使用を考えるのですが、さすがにこれを毎日行うわけにもいかず、仮に毎日可能であったとしても、その皮膚への損傷が、ストレスになりかえって脱毛を起こしかねないのです。そこで、出てきたのはエレクトロポレーションです、これは電気で細胞膜に穴を開けて、塗布した薬剤の浸透を促進させ、さらには細胞内へも浸透させようという考えの方法です。その細胞膜の穴は電気を切れば数分後には元に戻りとても侵襲の少ないものであるため、自宅での使用が可能です。
フィナステリドもデュタステリドも、わずか数ヶ月の連用でもDNAダメージを持つ精子の確率が増加することが最近の研究で判っています。そのようなことは喫煙などでも起こることであり、あまり深刻な問題となることはないのかもしれません。それは実際受精して出産に至るのは正常な精子のことがほとんどであり、DNAダメージを持つ精子は大抵は受精できず、まれに受精しても流産を起こしてしまうからでしょう。それでも出産にまで至れば異常を持ったまま生まれると考えられるのです。また皮膚や精液を介しての吸収程度の濃度で胎児奇形や妊娠異常を起こすことは考えにくく、また実際起こしたという報告もありません。さらに、授乳においても母乳への移行も問題となる濃度ではない(このようなことは喫煙でも同じようなことが言えます)。とはいえ、子供を作る予定のあるときには、事前に服用を中止し、妊娠がわかってから服用を再開するときも、コンドームを3ヶ月目程度までは使用し、さらに他の者の手に触れないよう管理するぐらいの用心があった方が良いのかと思います。(たとえば、不運にも他の原因で何らかの異常が起きたとき、このことが原因だったのではないかと、将来にわたって苛まれることにもなりかねない)万全な状態なんて難しいにしても、心の平安のためにも、用心に越したことはないということです。
薄毛の治療における5ARI(フィナステリドやデュタステリドなど)に対しても、妊娠出産などへの影響がないもので、ある程度は代替できうる成長因子を用いた方法もある訳ですから。