成長因子の効果的な使い方

成長因子を使用しての治療におけるポイントは3点ほどあります。
どうやって作り、どの程度の頻度で、どの様にして適用するかです。
まず第一点はその作成法です。理想的には、目的となる成長因子を、E.Coli等へ遺伝子組み込みにより遺伝子工学的に精製することです。しかし最近使用されているものの多くは幹細胞などの培養液から抽出したもので、目的する成長因子が少ないだけでなく、目的としない、望まないものまで含まれていている可能性があります。効果だけでなく、安全性の面でも遺伝子工学的に作成されてものを必要に応じて混合しての使用が望ましいと思います。
第二点は、常に一定以上の組織内濃度が必要なので、頻回に適応することが必要です、毎日でも。しかし多くの治療法では2週間に1度とかになっており、これでは仮に良い成長因子であっても、効果は出にくいはずです。しかし、この頻回適用には、まず自宅で行えることが必要で、これは第三点目のポイントである適応法が関係します。
つまり、もちろん、成長因子は高分子タンパク質なので、内服してはアミノ酸に分解され、塗っただけでは、十分には吸収されないため、通常は注射やマイクロニードルスタンプの使用を考えるのですが、さすがにこれを毎日行うわけにもいかず、仮に毎日可能であったとしても、その皮膚への損傷が、ストレスになりかえって脱毛を起こしかねないのです。そこで、出てきたのはエレクトロポレーションです、これは電気で細胞膜に穴を開けて、塗布した薬剤の浸透を促進させ、さらには細胞内へも浸透させようという考えの方法です。その細胞膜の穴は電気を切れば数分後には元に戻りとても侵襲の少ないものであるため、自宅での使用が可能です。

子作りとプロペシア

フィナステリドもデュタステリドも、わずか数ヶ月の連用でもDNAダメージを持つ精子の確率が増加することが最近の研究で判っています。そのようなことは喫煙などでも起こることであり、あまり深刻な問題となることはないのかもしれません。それは実際受精して出産に至るのは正常な精子のことがほとんどであり、DNAダメージを持つ精子は大抵は受精できず、まれに受精しても流産を起こしてしまうからでしょう。それでも出産にまで至れば異常を持ったまま生まれると考えられるのです。また皮膚や精液を介しての吸収程度の濃度で胎児奇形や妊娠異常を起こすことは考えにくく、また実際起こしたという報告もありません。さらに、授乳においても母乳への移行も問題となる濃度ではない(このようなことは喫煙でも同じようなことが言えます)。とはいえ、子供を作る予定のあるときには、事前に服用を中止し、妊娠がわかってから服用を再開するときも、コンドームを3ヶ月目程度までは使用し、さらに他の者の手に触れないよう管理するぐらいの用心があった方が良いのかと思います。(たとえば、不運にも他の原因で何らかの異常が起きたとき、このことが原因だったのではないかと、将来にわたって苛まれることにもなりかねない)万全な状態なんて難しいにしても、心の平安のためにも、用心に越したことはないということです。
薄毛の治療における5ARI(フィナステリドやデュタステリドなど)に対しても、妊娠出産などへの影響がないもので、ある程度は代替できうる成長因子を用いた方法もある訳ですから。

 

 

薄毛治療の方向性

治療で大切なことは、効果の高さだけでなく、いかに副作用や合併症を少なくするかなのです。しかし、現在における薬は、男性型脱毛症AGAにおいてはある程度の結果を出してはいますが、やはり副作用の問題は置き去りのままです。副作用を考える必要のない手術でも材料となる自毛の数には限界があります。

脱毛の抑制
毛髪生育の活発化なら成長因子の投与で可能となってきましたが、脱毛の抑制となるとちょっと厄介です。
毛包にアポトーシスを起こさせ、休止期へと導くものの代表的メッセンジャーは成長因子TGFーβ1ですが、これは主として男性型脱毛症AGAで見られるものです。これに対して慢性休止期脱毛症CTEや円形脱毛AAなどでは、神経ペプチドのサブスタンスPがメッセンジャーとなっているのかもしれません。これらのことが事実なら、脱毛症の対策は、これらのメッセンジャーが受容体に結合しないようにすれば良いことになります。拮抗薬などでブロックできれば、病的に休止期に移行することを避けられると言うことです。ただし、副作用等を考えると毛包の受容体を選択的にブロックしたいところですが、残念ながらこれが現時点では十分に出来ていません。(AGAにおいてはフィナステリドがTGFーβ1が生成されにくくすることで、抑制が可能ではあるのですが、男性ホルモンの作用まで抑制してしまう)

毛包器官の再生医療
毛包器官の元となる細胞を抽出して培養し、それを移植(注入)し、脱毛に強い毛髪を作り出すというものです。問題点は2点、一つは、新たに再生した毛髪も脱毛しないわけではない。元となる細胞の抽出を選択的に行っても脱毛原因はいくつもある。もう一点は、再生毛が乱生してしまうのではないかということです。こちらは、おかしな方向のものは、抜いて植え替えることもできます。

 

採取部のボリュームの違い(FUEとFUT)。

採取部分(多くは後頭部)は、移植に使用する株を、その毛を作る工場毎採取するわけですから、移植部には新たな毛の工場が出来、採取部からは工場がなくなり、採取した箇所からは原則毛は生えませんので、手術での採取量が多くなれば多くなるほど、後頭部分の毛の本数は減ります。

時折、ネットでFUEはFUT(正確にはFUSS)に比べて、採取部がスカスカになりやすいという情報が流れていますが、その情報にはあまり合理性を見出せません。
FUTがスカスカになりにくい理由に、頭皮の伸展性の高さをあげてあったりします、すなわち、縦を2センチほど切り取って詰めても、その程度は皮膚が伸びて補ってくれるため密度の低下がおきにくいとあるのです。
伸展性による変化を2つに分けて考えてみましょう。
1,採取部分の上下から伸びて、減少部分を吸収する。
2,採取部分の範囲だけの伸びで減少部分を吸収する。

まず、1ですが、見方を変えれば、これは採取部分の面積が減少するということなります。すなわち、うなじは上昇し、つむじは下降するわけです。髪が多い部分の密度やボリュームの変化は少ないが、その面積は減少することになります。困るのは、うなじが上がるのもやや不自然ですが、特につむじが薄い方の場合はその範囲は広がり下がる訳ですから、後ろから目立つようになってしまいます。

2では、毛穴と毛穴の間隔が開いているか、または切除縫縮した傷跡が目立つことになります。つまり一定の面積のなかで、本数が減少しているのですから、密度は当然少なくなっている。それでも、同一移植株ではFUEがボリューム(密度ではありません)の低下がFUTに比べ多くみえるのは、実際に採取している毛の本数(株数ではなく)と太さの平均値が違うためです。すなわちFUEにおいては、移植部での効果効率を考え、比較的、毛穴当たりに本数が多いもの、また太い毛のものを選択的にとることが多いのですが、FUTではそれは出来ません。あくまで平均値にしか過ぎず、同じ株数の手術でも移植部での効果は圧倒的にFUEが高くなるのですが、それに比例して、採取部ではボリュームが少なくなると言うわけです。もちろん、FUT程度の平均値で採取すれば、その変化は変わらないことになります。

プロペシアと更年期障害

もちろん、アンドロゲン受容体ARのリガンドとなるのはDHTだけではないですが、多くはこのDHTによるものであるため、やはり、慢性的な男性ホルモン作用不足すなわち男性型更年期障害がおこることは明らかです。更年期障害は、男女限らず顕著に症状が現れる人もいますが、あまり問題とならないことも多い。しかし、このように少なからず副作用(多くは定量化しづらい)をもつ薬剤の長期連用においては、常にリスクベネフィット評価(QOLも含めて)を行いながら使用すべきと考えます。

時折、AGAでもない脱毛症にもこのフィナステリドが処方されているの見かけますが、これは最も注意すべきことであり、ついでは、この更年期障害の状況を把握しながら使用されるべきと言うことです。

参1)男性ホルモンの作用
男性ホルモンのなかでも、もっとも分泌量が多く、作用も強いのがテストステロンです。 テストステロンは、睾丸の間質細胞の中で、原料であるコレステロールからつくられます。
血液に入ったテストステロンは、末端の標的となる細胞に取り込まれ、そこで5α‐リダクターゼという酵素のはたらきによってジヒドロテストステロンDHTになります。 DHTがリガンドとなり、アンドロゲン受容体ARと結合すると、細胞の核内に入ることができるようになります。核内には遺伝子があり、いろいろなたんぱく質をつくる指令が出ていますが、この遺伝子にはたらきかけて、男性ホルモンとしての作用を発揮するのです。

参2)男性型更年期障害の症状
体調的症状
性的能力の衰え早朝勃起の回数の減少疲労感不眠症状、筋肉痛がとれない、肩こり、頻尿、ほてり、のぼせ、腰や手足の冷え、汗をかきやすい、
精神的症状
性欲の低下うつ症状、仕事がつらい、集中力が続かない、やる気が出ない、毎日が楽しくない、イライラする

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成長因子はどうやって作る

また成長因子話題ですが。

ヒト皮膚幹細胞培養液やヒト繊維芽細胞培養液には様々な成長因子や酵素、SOD、コラーゲンやケラチン等の細胞外マトリックス成分が豊富に含まれており、これより、より目的に合うように精製していきます。

しかし純粋にヒト成長因子(FGF-7、VEGFなど)を作ろうとすれば、大腸菌を用い遺伝子工学的に作らせることになりますが、成長ホルモンやエリスロポイエチン同様、比較的高価です。

この二つの方法って、光脱毛での、レーザー方式とフラッシュライト方式に似てますね。フラッシュライト方式では、様々な波長の光から目的に合った光をフィルタリングすることが大切ですが、培養液からつくる成長因子でも同じことがいえます。

挿絵はhttp://www.anti-ageing.co.jp/より

PRP(多血小板血漿注入療法(Platelet Rich Plasma))もまた、血小板が放出する様々な成長因子GFを利用した方法といえます。PRPはワンショットで使用するものであり、継続的使用が出来ないため創傷治癒や移植片の生着などの急性期には有効であるかもしれません。ただ、成長因子を選べてないところが気にはなりますね。

AAPEもヒト脂肪細胞由来幹細胞を培養して得られる種々の成長因子を含むタンパク質。(これを使ってるのがHARGです、多種の成長因子が含まれることを売りの一つにしていますが、それは望まない効果の成長因子を含むかもしれず、また逆に望むものの量が少ないとも言える、またこれを月に1~2回局所注射して謳ってる効果が出るとは考えにくいです。)

フィブラストスプレー  主成分トラフェルミンは遺伝子組み換えで作成されるヒトbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)製剤、創傷(火傷、褥瘡等)治癒促進の目的で使用されています。さすがに遺伝子工学的に作られている医薬品ですので高価です。費用対効果はどうでしょうか。

自毛植毛 アンシェーブンi-SAFE

ほんの10年前は、自毛植毛といえば、切ったり、または大きなパンチでくり抜いたりそして縫ったりと、あまりスマートとはいえない、侵襲も大きく、ちょっと大変な手術が普通で、私も10年以上その方法でやっていました。それに対してFUEに分類される方法は、シンプルで侵襲も少なく、患者さんにとってずいぶん楽な手術であり、様々なアイデアの元、さらに洗練されて、現在では世界的にも主流となりつつあります。

しかしFUEでの患者さんにとっての新たな問題は、採取部分を大きく刈り上げる必要があることです。隠すためのアイデアはいくつかありますが、求められることは、刈らないままで採取をしてということです。そして、これこそ、究極の自毛植毛として、グローバルスタンダードになるべきものと考えています。そして、当院でも患者さんの特別申し出がない場合は、アンシェーブンで行けるようになれたらと計画しています。

生え際を自然に

>生え際のラインを決定するときに、多くの医者は、「だいたいこんな感じ」というかなりアバウトな方法で決定しているのではないでしょうか。仮に何らかの決め方があっても、それが理にかなっているものであると思えたことはありません。ラインをジグザグにしたり、スネークトレイル(ヘビが通った跡)などともっともらしいことを言っても、その科学的根拠について答えられる人はいません。
多くの科学的事象を説明するときに使われるのは、合目的的に考えるという手法です。この生え際もまた、この手法で説明できます。詳細は省きますが、顔面の表情筋群、帽状腱膜をもとに、なぜ部位によって毛が長くなったり短くなったりする必要があったのか、さらにはどうしてAGAが起こるのかと考えるところから、そのラインが見えてきます。決して絵を描くように作るのではなく、科学的根拠を持って作るからこそ、自然なラインが得られるのです。

FUE植毛ロボット

iSAFEのデメリットは?、多少手間がかかることと長時間の集中力を必要とすることくらいです。ここは出来るだけ器械をロボット化したいところですが、いまの段階ではロボット(たとえばARTAS(by Restoration Robotics Inc)など)の処理能力は全く人の作業に精度や速度で追いついていない状態ですし、切断を減らすためにパンチのサイズに大きさを必要とするため、その傷跡はやや目立つもので、最大でとれる数も少なく、取れたものをさらに手作業でトリミングしてグラフト化する必要があるなど(もちろん、アンシェーブンのような高度なこともできません)、まだ、客寄せパンダ・おもちゃのレベル、早く使えるロボット化を期待してはいますが、もう暫くは人の処理能力で頑張るしかないようです。

artas

比較内容
ARTAS
iSAFE
グラフトの精度と質パンチサイズが大きすぎて、人手でのトリミングが必要であり、マイクロパンチではない従来のパンチ法とかわらない質、パンチのサイズを小さくしようとすると、演算予測が不十分になり、切断率が高くなる。すなわち演算に用いるパラメータの数が少なすぎる。パンチのサイズはFUの大きさに合わせ、取れたものが必要十分で最小であり、そのままグラフトとして使用可能、これは、パンチを挿入するときに角度だけでなく伝わる微妙な感触までコントロールされるためである。
採取速度パラメータも不十分だが、それでも画像処理・演算に時間がかかり、1時間で500株が限界。取れやすさに左右されるが、1時間で1000~1800株と圧倒的に速い。
患者様が感じる負担ドナー部は緊張をかける必要があり、その器具の負担があり、座位で動きも制限され、固定されている感がある。時間も短いが、比較的楽な体位で、ほぼ眠った状態で受けられる。
施術後の傷従前のFUEと同じくパンチのサイズが大きく、虫食い痕が目立つ。φ0.65~0.85mmというマイクロパンチを使用しているため、虫食い痕は目立ちにくい。
安全性人が器械を使うというより、器械任せな部分が多く、安全センサーにより緊急停止するとはいえ、不安が残る。すべての器械の動きは施術者の管理下にある。
メリット・デメリット採取だけは機械任せなため差が出ないが、トリミングとインプラントは従前の方法とかわらず手作業なため、この部分で技術差が出てしまう。また、あまり大きい移植には使えない。手作業はあまりなく、ほとんどの過程で器械を使用してはいますが、それでも、長時間の集中力を必要とし、使いこなしによる施術者およびアシスタントの技術差が多少なりとも存在する。
時間はかかるが、4000グラフト(1万本)ほどまでは可能。

なぜグロースファクター成長因子

長年、手術と薬の併用治療を推薦して参りましたが、その理由は、薬だけでは、一時的に良いようでも、満足いく状態を維持できない、かといって、手術にも限界はあるとのことからです。単独療法に比べたら満足度の高いものです。しかし、この薬が問題です、長期連用することになるのですが、なかなか効果を維持できないだけでなく、副作用の問題が浮かび上がってくるということです。それはあまり問題にならないものが大半ですが、少なからず存在しています。そして、中にはイリバーシブルなことも

私は、主としてアンチエージング(抗老化)、あるいは男女の更年期障害治療、ボディービルなどの目的で、ホルモン補充療法を行っていたことがあります。この時使用するホルモンのうちでも、成長ホルモンは、使用していると、確かに髪の毛の質量増加があります(つまり、抜けずに太くなる)。これは、直接的にはメッセンジャーである種々の成長因子GFが関与していることは間違いないことです。このホルモン補充療法は、糖尿病インスリンの注射のようにご自身でほぼ毎日注射が必要なこと、費用がとても掛かること、さらには、副作用を含めた投与量の管理が大変であるため(また、ドーピングにも引っ掛かります)、薄毛治療の目的のためには現実的ではないでしょう。
バイオ技術が進歩して、比較的容易に成長因子GFを精製できるようになりました。注射ではなく低侵襲で毎日でも出来る方法も確立されてきましたため、だからこそ、従来の薬に代わるものとしていま成長因子グロースファクターなのです。すなわち、手術とグロースファクタ-(時として従来の薬)の併用療法こそが、望ましい薄毛治療といえます。

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