女性の相談で多いのは、
頭頂部「分け目」の地肌が透けて、ボリュームがない。
四角く男性的なおでこの生え際を丸くしたい。
の二つになります。今回は頭頂部分け目についてです。
男性の薄毛の原因のトップはAGA男性型脱毛症であり、メカニズムもかなり解明されているため、有効といえる薬もあります。また植毛においても材料の採取として用いる後頭部の毛はAGAを起こさない性質があり、材料としては優れています。これに対して女性の薄毛のトップはびまん性脱毛症の一つであるCTE慢性休止期脱毛症であり、メカニズムも不明な部分が多いため、決定的な治療法がありませんが、やはり手術と薬の併用が基本となります。
ここで言う薬の主たる目的は、毛の成長維持、休止期から成長期への転換です。この目的にあったものは、成長因子グロースファクターGFでしょう(ミノキシジルも最終的には成長因子による効果との研究があります)。GFは週のうち3日以上は行うことが必須です。髪のために使うGFにはほとんど副作用はありませんが、これが高分子タンパク質であるため。内服してもアミノ酸に分解され、塗布では充分吸収されない、注射だと毎日頭部に打つのは難しく可能であっても、それ自体がストレスとなり、CTEの原因となりかねない、かといってよくあるメソセラピーの様に2週に一度では効果が充分でない、など問題がありこの中では、効果は少なくても自宅で塗布するのを基本として、月に数回メソセラピーとして投与が現実的です(GFの他、PRPやオートコラーゲンなど再生メソセラピーもある)。効果が見えるケースでも、ほとんど瘢痕化したような毛穴から発毛すると言うことはやはりなく、そのような部分は確実性が高く副作用を考える必要のない植毛を行っていくことになります。
そのほかの女性の薄毛の薬では、FAGA(女性の男性型脱毛症)にはスピロノラクトンやタガメット、フルタミドを使った男性ホルモンの作用を阻害する方法もありますが、副作用の割には効果が少ない気がします。さらに、女性の薄毛や抜け毛を改善するというサプリ?も処方されることもありますが、副作用はないですが、費用対効果は悪い気がします。
他の育毛のメッセンジャーの一つにプロスタグランジンf2αがあると言われていますが、機序は解明されてはいません。ルミガン、ラティス、グラッシュビスタ(ビマトプロスト)として、まつげ育毛に使用されていて、有意な効果が認められます。しかし頭髪の対するように広範囲使用の安全性は確立されていません。
また、CTEの原因は、自律神経が生まれつき過敏であるなど、神経に関係している証拠もあり、そこではサブスタンスPなるメッセンジャーもあります。こちらに関しては最近、交感神経をブロックするボトックスが有効かもしれないという研究もあります(研究における結果の解釈は私の解釈と異なりますが)。これは今までの治療で十分でないCTEのケースでは試してみてもよい薬と思っています(これはまた、頭からの過剰の汗の防止になる)。
女性の植毛においても、採取には一般に後頭部が使われます。もちろんAGAの場合と異なり、CTEを起こしうるのですが、それでも他の部分に比べると脱毛には多少なりとも強いようです。この比較的強い部分から、慎重にさらに強い毛を持つグラフトを選択して採取しなくてはいけません。そういう意味ではストリップテクニックは適していません。
また、移植においても、侵襲の少ない移植毛穴をあける必要があります。これは既存毛に対する配慮というよりも、その侵襲が新たなストレス、新たな脱毛につながらないようにするためです。また使用するグラフトや移植のデザインにおいても、男性よりさらなる審美性を必要とします。
このようなことを、熟知し熟練した医者が、慎重に行ってはじめて、女性における植毛での満足度を上げることができるのです。男性へ行うと同じ感覚で手術を行えば多くは満足の得られない結果となりかねません。
投稿者プロフィール
- 経歴
1988年 熊本大学医学部卒業
熊本大学医学部付属病院 勤務
1989年 某大手美容整形外科クリニック 本院勤務
1998年 都内美容外科クリニック 院長就任
2002年 米国での自毛植毛研修を経て、植毛クリニック開院
2006年 某大手植毛クリニック 院長就任
2014年 アスク井上クリニック 開院
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