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髪に関する書籍紹介

女性の作家やライターがまとめた書籍が多々ある中、今回は『育毛の心理』(東田雪子)をご紹介いたします。

1.髪の役割

(1)排泄の役割
 私たちの体内で消化しきれなかった、毒素などを含む老廃物は、血液に乗って、頭皮下に集結する。この老廃物は、髪に取り込まれ、体の外に運び出される仕組みになっている。
毒物による犯罪検査で、髪の中に含まれた成分によって使用された毒物が特定されるのはこのためである。
老廃物の量が多くなると、髪をつくり出す毛母細胞の働きが悪くなってしまうが、
それでも髪がつくり続けられることに変わりはない。
当たり前のことだが、人が生きている限り、老廃物は生まれる。したがって、髪も人が生きている限り、生える仕組みになっている。
だから、よほど特殊な病でなければ、髪が無くなってしまうことはない。

(2)保温の役割
 人の髪の毛は、約10万本といわれている。
この膨大な量の髪の毛は、ちょうど毛糸のセーターやマフラーと同じ原理で、互いの間に空気をとどめ、外気温の変化が直接脳に届かないように、保温材の役和知を果たしている。
私たちの脳は、急激な温度変化に対して、きわめてもろく、過敏である。
たとえば、私が小さい時は、脳溢血で倒れる人の多くが、夜、暖かい室内から寒いトイレに用足しに行った時に発症したといわれていた。その頃の家屋は機密性に乏しくて、廊下やトイレまで暖房が行き届いていなかったため、急激な外気温の変化に脳が対応しきれなかったための発症であったと聞いている。
このような外気温の急激な変化を緩和させて、脳が護るのも、髪が担っている大切な役割なのである。

(3)クッションの役割
 私たちが健康な毎日を過ごすためには、体のすべての機能が正常に働かなければならないが、その中でも、命の中枢をつかさどる脳は、小さな傷ひとつも許されない存在である。そのため、完全に骨で覆われている。
人間の体の中で、完全に骨で覆われている器官は、脳だけである。
脳は、熱や衝撃に非常に弱く、その一部でも損傷すると、人体に重大な影響をもたらしてしまうといわれている。
約10万本備わっている髪の毛の表面は、キューティクルと呼ばれる固い組織で覆われている。ちょうど歯の内部が表面のエナメル質によって護られているのと似ている。キューティクルは、バリアーの役割をはたして、一本一本の髪の毛の内部を外部の刺激から守るとともに、髪の水分を保持する役割をはたしている。
カラーリングの際、髪の色が簡単に変えられないのは、このキューティクルのバリアー機能が働くからである。
このキューティクルによって固められた髪の毛は、非常に丈夫で、これを束ねると、ワイヤーロープにも匹敵するほど強靭なものになる。
ワイヤーロープが無かった頃、寺院の鐘を吊り上げるのに、女性の髪の毛でなわれた縄が用いられた事実もある。
一本一本がキューティクルによって固められた髪の毛は、頭蓋骨の上の頭皮にあって互いの間に空気をとどめ、保温の役割とともに、脳を衝撃から護るクッションの役割も果たしている。髪の役割を果たしている。

2.酵素と栄養素があれば髪は育つ

多くの人が、髪が育つには特別な条件があるかのように誤解しているが。赤ちゃんが大人に成長するのに必要な条件と同じで、髪は酸素の栄養素があれば育つ。
しかも、人が成長するためには意識的に栄養素を摂らなければならないが、髪は、放っておいても育つようになっている。
なぜなら、酸素は頭皮の呼吸(※補足あり)と毛細血管を通してまかなわれ、栄養素もまた、毛細血管を通してまかなわれているからである。
つまり、頭皮の状態と毛細血管に問題が無ければ、髪は自然に育つ仕組みになっている。
人が生きて、呼吸をし、食事をしてさえいれば、髪の成長に必要なこの2つの条件は自然に満たされる。
※近年皮膚呼吸の定義について、さまざまな議論が交わされるようになった。中には皮膚呼吸が存在しないとする極論もある。しかし、筆者はエステティシャンとしての経験から、肌に有効成分が浸透するのは、皮膚が呼吸しているからであると確信しているし、この皮膚の呼吸を妨げないことは、健康な肌と髪を保つのに必要不可欠であると考えている。

3.髪は抜けて当たり前

脱毛を恐れる気持ちから、抜け毛を極端に気にする方がいるが、抜け毛はあって当たり前である。
相談者の中にこんな方がいた。
Bさんの頭皮は、私の目には脱毛とは無縁で、どちらかかと言えば、ふさふさとしているのに、

「きのうも200本抜けました」

「もう、2年もの間、毎日200本ずつ抜け続けている」

「抜けるだけで新しい毛は全く生えてきません。このままではハゲになるしかありません。僕の家系なんです。どうすれば良いのか教えてください」

と、鬱々と真剣に訴える。
そこで私が、ひとの髪は約10万本といわれている事実を説明して、
「1年が365日なので、1日200本の髪が、2年間ただ抜け続けると、14万6000本が抜けたことになります。あなたの頭には、十分髪があるし、計算が合わないですね」
と、Bさんの不安と錯覚を指摘すると、めまぐるしく瞳を動かして何やら考え始めた様子で、「計算機を貸してほしい」と言う。
そして、ぶつぶつと小さな声を発しながら、何度も何度も電卓をたたく。
やがて顔をあげると、晴れ晴れとした様子で、

「本当だ。どうして気づかなかったんだろう」と叫びに近い声をあげた。

このBさんのような脱毛不安は、髪が生える仕組みをきちんと知ることによって、うそのように解消されるようだ。
人の髪は、約10万本といわれる。この膨大な量の髪は、頭部全体を覆って、外気温の変化や、外からの衝撃を緩和して、大切な脳を内包する頭部を護る役割を担う。
また、体内の老廃物を排出するために、人が生きている限りつくり続けられ、伸びてゆく。
しかし、髪には寿命がある。髪は際限なく伸び続けるわけではなく、歩行の邪魔にならないように、切らずに放っておいても、その人の腰の辺りまで伸びると自然に抜け落ちることになっている。ショートヘアの場合でも、腰の辺りまで伸びる時間に合わせて抜け落ちる。つまり、抜け毛が発生するのは、自然なことなのである。
この寿命がきた髪が抜け落ちると同時に、新しい髪が生え出る仕組みになっているので、人の髪は常に約10万本を維持できることになっている。
この髪の寿命の(生え変わる期間)を毛周期と呼ぶ。
髪の伸びる早さには個人差があるため、髪の寿命(毛周期)は人によって異なる。
これは髪の伸びが早い人と遅い人では、髪が腰の辺りまで伸びる時間に違いが生じるためで、伸びの早い人で約5年、遅い人で約10年といわれている。
仮に、毛周期を5年と定めて、単純に5年間で10万本の髪が生え替わると仮定した場合
100.000本÷5年(365日×5年=1825日)=約54.79本  となる。
つまり、1日に約55本の髪が抜け落ちる(生え替わる)計算になるが、毎日決まった量が抜け落ちる訳ではなく、暑い夏と寒い冬は少なく、気温の穏やかな春と秋に髪の生え替わりが集中する。
また、シャンプー時に抜け毛が多く確認されるが心配することはない。自然に抜けた髪は抜けると同時に頭から離れ落ちるのではなく、ほとんどの場合たくさんの髪の間に引っかかって、頭部にとどまっている。その髪がシャンプー時にまとめて取れるが、20本~30本程度の抜け毛なら気にすることはない。また、シャンプー行為によって髪が抜けてしまうわけでもない。

4.皮脂は髪を護る大切な成分

200倍スコープで頭皮を映し出すと、様々な形で盛り上がった白い塊が確認できる、
この白い塊は分泌された直後の皮脂である。
職業柄皮脂が分泌される瞬間を目にするチャンスが多々あるが、何度見ても、うれしくてわくわくする。
モリッと一度に出る場合もあれば、夏の入道雲のようにムクムクと出る時もある。
また、ジワーっと出る場合もあったりして、同じ私の頭皮に分泌される皮脂なのに、その多様性にはいつも驚かされる。
この真っ白なかたまりが、汗と混じり合って皮脂膜(保護膜とも呼ばれる)になる。
皮脂から少し離れたところににじみあがった汁が、ゆっくり広がって、その汗が皮脂に届く。すると白い皮脂が一瞬で透明色に変化する。
透明色に変化した皮脂がゆっくりと広がるように見えた次の瞬間、まるで生き物のようにピュッと髪に飛びつき、その髪を包むようにして毛先の方に広がってゆく。
すると髪の表面が鏡のようなつややかな光沢を帯びる。皮脂が保護膜に変わった瞬間である。
その瞬間を見る幸福に巡り合えた時の喜びと感動は。どのような言葉をもっても表現し尽くすことはできない。まさに筆舌に尽くし難いという思いである。
この神秘的な動きが何度も繰り返されて、やがて髪の先まで皮脂膜がゆきわたる。髪が長いと、毛先まで皮脂が届くのに相当な時間を要する。毛先が傷みやすいのはこのためである。
皮脂の出方もいろいろだが、皮脂膜が形成されて広がる様子もまた、さまざまである。
汗と混じり合った皮脂が、そのまま頭皮に広がる場合もある。
また、髪の根本から毛先にむかってゆっくり滑るように広がることもある。
このように、悪玉と誤解されることの多い皮脂は、実は、汗と混じり合って私たちの髪と頭皮を乾燥や細菌の感染などから護ってくれる皮脂膜を形成する、なくてはならない大切な成分である。
私たちの皮膚は、乾燥にとても弱い。空気が乾燥すると肌が荒れるのは、皮脂が傷むからである。また、頭皮が乾燥すると細かなフケが発生するのも、このためである。
この乾燥に弱い皮膚を護っているのも、皮脂によってつくられる、皮脂膜である。
皮脂膜はその役割から保護膜とも呼ばれる。
皮脂は頭皮を含む、私たちの前身から分泌されて保護膜を形成しているのである。
どんなに乾燥した空気の中にあっても。私たちの身体から水分が蒸発してしまわないのは、この、保護膜のおかげなのである。
保護膜の上には、常在菌と呼ばれ菌が生息していて、皮膚についた雑菌を退治して、私たちの身体を病から護っている。
ところが、この常在菌も、乾燥に弱い。この常在菌を乾燥から護っているのもまた、皮脂でつくられる、保護膜なのである。
余談になるが、皮脂で作られる保護膜は、美容界では天然の乳液ともいわれている。
私たちが使用している化粧品は、この保護膜に似せてつくられている。化粧品の究極の目標は、実は、皮脂でつくられた保護膜なのである。
このように皮脂は、私たちの体を乾燥や雑菌から護っている大切な成分であって、決して育毛を妨げる成分ではない。
また巷では、皮脂のかたまりが、育毛剤どの有効成分の浸透を妨げるという風説があるが、決してそのようなことはない。
まるで毛穴をふさいでいるように見える。分泌された直後の皮脂のかたまりは、水でも簡単に洗い落せる、きわめて柔らかなもので、しばらくすると、汗と混じりあって皮脂膜に変わる。
また、皮脂は人体に必要な成分が皮膚から入り込むのを妨げることはない。
たとえば、湯治といわれる行為は、病や傷などの治療を目的に、温泉水に含まれる有効成分を、体内に浸透させるために湯につかる行為だが、全身の皮脂を粗い落とさないまま温泉につかる。
それでも温泉の有効成分が、皮膚を通して吸収される。
このことからも、皮脂が育毛剤の有効成分の浸透を妨げるものではないという事実をお分かりいただけると思う。
後に詳しく述べるが、皮脂を根こそぎ取ろうと、洗浄力の強いシャンプーを使用したり、頭皮を長時間洗うなどの行為は、頭皮に様々なトラブルを引き起こし、かえって脱毛を推進させる結果となるので、絶対にしてはいけない。

5.皮脂が汚れに変わるとき

皮脂はなくてはならない大切な成分であるが、時間の経過とともに空気中の酸素に反応して、徐々に酸化してしまう。
保護膜であった皮脂が酸化してしまうと、粘着力を持つ。粘着力を持った皮脂はその時点で汚れに変わる。そして粘着力を持って汚れに変わった皮脂には空気中のチリやホコリがつきやすくなる。
大きなフケは、酸化してしまった皮脂と古くなった角質(垢)、そして汚れが幾重にも積み重なってできたもので、フケという字を「雲脂」と書くのはそのためである。
頭皮の汚れを毎日きちんと落とさずにいると、このフケは浮き上がることなく頭皮に粘着したままになってしまい、脱毛の大きな原因になる。
また、数日おきのシャンプーでは、頭皮に積もった汚れでかゆみが発生する。
すると、無意識にかゆみのある場所を掻いて、頭皮を傷つけてしまう。
その結果、脱毛が進行することもある。
だから、その日の汚れはその日のうちに洗い落すようにすれば、老化現象がはじまるまではストレスや病気、ケガなどの例外を除いて、基本的に髪と頭皮のトラブルに見舞われることはない。
ただし、くれぐれも使用するシャンプーとコンディショナーの選択と、洗髪方法を間違えないようにしていただきたい。

6.本当は怖いこんなシャンプー方法

入浴時間も惜しんで受験勉強に専念した甲斐あって、希望大学に現役で合格したCさんの頭髪は、まるで洗髪したばかりのように濡れた感じだった、
濡れているように見えるのは「皮脂のせいなんです」と言う。
聞けば、もともと脂性だったCさんは、大学生になって間もない頃、友人たちの間で話題になっていたシャンプーを使用するようになって、洗い上がりのさっぱり感が、脂性と、受験勉強に明け暮れた日々を過去のものにしてくれるように感じたという。
ところがしばらくすると、以前にも増して髪が脂ぎるので、洗髪時間を長くしたところ、しばらく良かったが、また、髪が脂ぎるようになったので、もっと洗髪時間を長くした。そうしてだんだん洗髪時間を長くしたが、脂性がひどくなるので、今では一日に何度も洗髪するようにしているという、
「僕の青春は受験勉強から、シャンプーに変わりました」と、ユーモラスに言うが、瞳は真剣だった。
私が「治りますか?」と、尋ねるCさんに、
皮脂の役割について詳しく説明し、皮脂は髪と頭皮を護るために、洗髪直後に最も多く、急速に分泌されるプロセスを伝えて、Cさんの現状を、
「洗浄力の強いシャンプーを使用したり、シャンプーをつけてこすり洗いの時間が長くなるほど、頭皮の保護機能が働いて、皮脂の分泌量が多くなります。そうすると、これまでよりさらに洗浄力の高いシャンプーで時間をかけて洗うようになり、皮脂の過剰分泌がクセになってしまった結果」と伝えると、
「そうです。本当にその通りでした」と、納得した様子だった。
私はCさんに、私がすすめるシャンプーとコンディショナーを示して、
「今日からこのシャンプーとコンディショナーを使用して、洗髪は一日一回だけにしてください。それから一回の洗髪時間は長くても30秒以内にしてください」と、正しい洗髪法を伝えた。
しかし「皮脂は育毛の大敵」と、間違った風説を信じきって一日数回、長時間の洗髪を風習化して来たCさんにとって「一日一回30秒以内の洗髪」を実行するのは、相当な勇気と強い意志を持ち続ける必要があったようで、
「本当に30秒で皮脂が洗い落せるのでしょうか?」と、何度も電話で訴える。私は、何度も同じ話を繰り返し、
「これ以上悪循環が繰り返されると、やがて頭皮に湿疹ができる。そしてこの湿疹は次第に頭皮下におよび、脱毛の原因になるといったケースも多い」という現実を説明して、正しい洗髪法を実行するようお願いした。Cさんは渋々と言った感じだったが、約一か月後、
「おかげですっかり良くなりました。なんだか悪い夢を見ていたような気がします」
という、感想を交えたうれしい報告が届いた。
Cさんのようなケースは、肌に良い成分で作られたシャンプーとコンディショナーを使用して、正しいシャンプー法を実行すると、1~2ヶ月で皮脂の過剰分泌が治まる。
「30秒の洗髪は、最初は頼りなかったけど、今では当たり前になった。苦労して全く逆のことをしていたのが分かりました」というのが、相談者に共通した感想である。
また、長時間の洗髪以外にも、間違ったシャンプー法を実践して、髪と頭皮に重大なトラブルを招いてしまった相談者も多い。
シャンプーの選択ミスと、シャンプー法の間違いは、さまざまなトラブルを招くだけではなく、脱毛の主原因になってしまう場合もある。
シャンプーの目的、皮脂の役割をきちんと認識して、これらの間違った習慣を一日も早くなおして、脱毛不安などとは無縁な毎日を過ごしていただきたい。

7.慢性ストレスを脱毛

現代はストレスの時代と言われるが、食料の確保が難しかった太古の昔も、今とは違う大きなストレスがあっただろうし、戦が絶えなかった戦国時代の人々のストレスが、今より少なかったとは考えにくい。
したがって、現代社会のストレスによって、脱毛が急増している訳ではないが、ストレスが原因で、薄毛になってしまう方が多いのも事実である。
私たちの血管に分布している交感神経は、血管を収縮させる作用があり、副交感神経は、血管を拡張させる。
人は強いストレスを受けると、交感神経が過剰に働いて血管を収縮させてしまう。強烈なストレスで胃の働きが悪くなってしまうのもこのためである。
頭皮の毛細血管も、このストレスの影響で収縮してしまうので、髪をつくり出す毛母細胞への栄養補給が滞りがちになってしまう。
しかも慢性ストレスの場合は、ストレスを感じるたびに毛細血管が縮んでしまう。
その結果、毛根への栄養が届きにくくなるので、毛母細胞の働きが弱くなり、髪が細くなったり抜けたりして、徐々に薄毛が進行する。
ストレスがなくなれば、髪は徐々にもとの状態に回復するが、ストレスを受ける環境から抜け出せない場合は、年齢に関係なく、育毛剤の力を借りて、毛母細胞への栄養補給を行う必要がある。
ただし、育毛剤は、刺激や血管拡張によって一時的に血流を促進させる目的でつくられたものではなく、必ず栄養補給を目的としてつくられた育毛剤を選択しなければならない

8.十円ハゲはすぐ治る

円形脱毛に代表される急性脱毛は、非常に強いストレスで血管が急激に収縮して、毛根部分から離れてしまい、毛根へ栄養補給が完全に断たれてしまうために現れる一時的な現象である。
強いストレスによる円形脱毛は、ストレスが解消されると同時に血管の収縮も回復するので、髪は早々に蘇生する。おおかたの場合、放っておいても3ヶ月ほどで回復し、脱毛の痕跡は跡形もなく消えてしまう。
この円形脱毛は、急激で非常に強いストレスがあってから役1ヶ月から3ヶ月後に現れる。これは、毛根への栄養補給が途絶えても、毛乳頭と呼ばれるところに栄養素が蓄えられておるため、しばらくの間はその蓄えられた栄養素で髪が留められているからである。
そのため、実際に円形脱毛が現れる頃には、ストレスの有無を指摘されても、本人には思い当たらない(ストレスの自覚がない)場合が多くある。私の経験からいうと、ほとんどの方が、「自分はストレスを感じないタイプ」であると信じ込んでいる。
その方たちにとっては、円形脱毛が現れることによって、「自分はストレスに弱いらしい」という思いが、予想外に大きなストレスになってしまい、脱毛をひどくさせてしまう場合もある。
しかし、円形脱毛は、数ヶ月前の出来事が、実は本人にとって強いストレスであった事実を、本人と周囲の人たちに知らせるための人体の保護システムにすぎないのであって、それほど深刻に考える必要なないと私は考えている。
円形脱毛が現れても、必ず治るもので、決してあわてず、必要以上に余計な手入れをしてはいけない。間違ったケアを施してしまい、かえって頭皮や毛細血管を傷めるなど、新たな脱毛を引き起こすケースも少なくない。
飲み薬や塗り薬の使用も必要ないと考えてよい。

9.産後な脱毛

相談者の方に、40代後半の女性がいた。
茨城から名古屋まで、遠路はるばると訪ねてみえたこの方は、初対面の席で、ななめに構えた様子で、
「別に悩んでいる訳ではないが、興味があって来てみただけ」と、言った。
目鼻立ちのはっきりとした方で、かたくなとも思える態度と言葉遣いに、対応に苦慮した私は、42歳頃に自身の頭に白髪の群生を見つけたときの心境を
「人生が終わったような、大きな衝撃を受けた」と伝え、
「白髪でさえそうだったから、髪が抜け落ちたら、もっとショックでしょうね」
と、水を向けると、ようやく心を開いてくれた。
「昔は、真っ黒で、量も多かった」という、その方の髪が、
「初めての子が生まれて、気がついたら、すっかり薄くなっていた」という。
いわゆる、産後の脱毛である。
「このままではどんどん薄くなってしまう」という危機感から、育毛サロンを手当たり次第に渡り歩いたというその方は、ウィッグ(部分カツラ)をつけていた。
マンションが買えるほどの金額を、育毛のため費やしてしまったというのに、ウィッグをつけなければ人前に出られないほど脱毛が進行してしまったという。
ウィッグをはずしたその方の頭皮は、よく見なければ、まるで毛がないように見えた。私は一目見るなり、思わず、
「ひどい目にあわれましたね」と、口走ってしまったほどであった。そして、
「時間がかかるけど、大丈夫です。お手持ちの育毛器具や、育毛機械は絶対に使わないようにしてください」と伝えると、
「私がバカでした。知らないことは罪ですね。一生懸命働いている主人に申しわけない」と言って泣いた。
産後の脱毛に対する認識不足が招いてしまった、深刻な脱毛であった。
女性だけに見られる産後の脱毛は、ひと言で言ってしまえば、出産にともない急激で強烈なストレスによる一時的な現象にすぎない。
新しい命をこの世に送り出すための想像を絶する強烈な痛みに、数時間、場合によっては数十時間も耐えて、時には死に瀕することさえもある出産は、壮絶な命のバトルである。
産婦にとっては、日頃の生活では決して体験することのない、体力、気力の限界への挑戦でもある。
私自身も、出産を経験して、「家庭内で女性が強くなるのは当然だ。命のやり取りを経験した女性が強くなるのは当たり前で、世のおばさんと呼ばれる方々が怖いもの知らずなのもうなずける」と、思ったくらいである。
そのような壮絶な体験をへた産婦には、出産直後から育児が始まる。2~3時間おきの授乳、おむつ交換と、母体の状態など一切お構いなし、待ったなしである。
しかも、近頃の産婦のほとんどが、子守りの経験がない。
そのうえ、家族の食事、洗濯、掃除などの家事もある。
出産にともなうストレスだけなら、円形脱毛と同様のメカニズムで、産後の1ヶ月~3ヶ月くらいから始まり、放置しておいても自然に解消される。
しかし、産後の脱毛の場合、脱毛現象そのものに対するストレスだけではなく、育児に対するストレスも加わって脱毛を促進させてしまうケースが多い。
産後の脱毛も、円形脱毛も、本人の言葉にできない訴えを周囲に知らせるための信号が形になって現れる。どちらの場合も本来なら放置しておけば、自然に、跡形もなく解消されるが、周囲の理解と協力、思いやりが脱毛解消のカギである。